インドの繊維産業は過去数十年の間に著しい変貌を遂げた。かつては主に伝統的な織物生産で知られていたインドは、今や世界最大級の織物製造・輸出国として頭角を現している。2023年、インドの繊維セクターは約1500億ドルと評価され、内需と国際市場のダイナミクスの両方によって、大幅な成長が見込まれている。世界の繊維産業におけるインドの役割が拡大するにつれ、インドはグローバル・サプライ・チェーンにおける将来の地位を再構築しうる課題と機会の両方に直面している。
インドの繊維産業は、国のGDPに最も大きく貢献している産業のひとつであり、国の生産高の約2〜3%を占めている。この部門は4,500万人以上に直接雇用を提供しており、インド最大の雇用部門のひとつとなっている。また、特に繊維製品の輸出による外貨獲得の主要な源泉でもあり、2022-2023年の輸出額は440億ドルと評価されている。インドの繊維産業は多岐にわたり、綿、ウール、絹、ジュート、合成繊維のほか、衣料品、ホームテキスタイル、テクニカルテキスタイルなど、さまざまな製品を生産している。
インドは長い間、繊維産業の基幹をなす綿花生産において競争優位を保ってきた。世界最大の綿花生産国であり、綿織物の主要輸出国でもある。この優位性は、低い労働コストや原料の入手可能性と相まって、インドを世界の繊維市場における重要なプレーヤーとして位置づけている。
インドの国内繊維市場は、いくつかの要因によって急速に成長している。中産階級の増加、可処分所得の増加、伝統的な生地と現代的な生地の両方に対する嗜好の高まりが、国内の繊維製品需要に拍車をかけている。都市化も繊維市場の成長に寄与しており、都市部の消費者は日常着から高級ファッション、ホームテキスタイルまで幅広い製品を求めている。
インドのファッション産業の台頭は国内消費をさらに押し上げた。消費者の嗜好の変化、特にブランド品やより高品質なテキスタイルへの志向が、ミッドからプレミアムの市場セグメントの拡大につながった。RaymondやFabIndiaといったインドの大手テキスタイルブランドは、こうした新たな需要を取り込み、上質なコットン、シルク、ウール混紡といった高級品の種類を増やしている。国内市場は、インドの大規模で若々しい人口と都市化の進展から恩恵を受け、今後も安定したペースで拡大すると予想される。
インドは繊維輸出市場におけるグローバル・プレイヤーとしての地位を確固たるものにしている。中国に次ぐ繊維輸出国であり、世界市場シェアの約5%を占めている。インドの繊維製品の主な輸出先は、米国、欧州連合(EU)、アラブ首長国連邦(UAE)、バングラデシュやスリランカなどの近隣諸国である。主な輸出品目は、綿織物、衣料品、家庭用繊維製品、技術用繊維製品などである。
COVID-19の大流行がもたらした困難にもかかわらず、インドの繊維輸出は、政府の強力なイニシアチブ、競争力のある価格設定、世界的な需要の回復に支えられ、急速に立ち直った。さらに、サプライチェーンの多様化という世界的なトレンドは、国際的なバイヤーが中国に代わる選択肢を求める中で、インドに利益をもたらしている。インドの競争上の優位性は、高品質の製品を競争力のある価格で提供できる点にあり、特に綿ベースの生地や衣料品のような低コストの製品カテゴリーでは顕著である。
世界の繊維サプライチェーンにおけるインドの地位は着実に強化されている。人件費の高騰、環境規制の強化、地政学的緊張の継続などにより、繊維セクターにおける中国の優位性が課題に直面し始めるなか、インドはこうしたシフトから利益を得る態勢を整えている。企業が調達先を中国以外の国に多様化する「チャイナ+1」戦略により、多くのグローバルバイヤーが繊維製品のニーズをインドに求めるようになった。
インド政府はこの移行を積極的に支援しており、Atmanirbhar Bharat(自立したインド)プログラムやPLI(Production Linked Incentive)スキームなど、インド国内の製造業を促進することを目的とした取り組みを行っている。これらの政策は、インフラを改善し、投資を奨励し、最新技術の採用を奨励することによって、インドの繊維部門の競争力を高めることを目的としている。
インドの強みにもかかわらず、中国との競争は依然として大きな課題である。中国の繊維産業は、規模の大きさ、技術の進歩、大量生産を支える確立されたインフラの恩恵を受けている。インドは、生産量ではまだ中国に及ばないものの、特定の市場セグメントではニッチを切り開いている。インドの強みは、高品質の綿花生産、環境に優しいテキスタイルの人気の高まり、低価格帯と高級帯の両方に対応する能力にある。
さらに、世界の消費者が持続可能性への関心を高めている中、インドは環境に優しいテキスタイルへの需要の高まりに乗じる好位置にある。インドの製造業者は、オーガニックコットンの使用、水効率の高い染色技術、リサイクル素材の使用など、持続可能な手法を採用するようになってきている。このような持続可能性重視の姿勢は、天然素材やオーガニック素材への需要の高まりと相まって、市場のプレミアム・セグメントや環境意識の高いセグメントにおいてインドの競争力を高めている。
持続可能性は、インドの繊維産業の将来を形作る重要なトレンドである。環境問題や社会問題に対する世界的な意識が高まり続ける中、インドの繊維メーカーは環境に優しい生産方法を取り入れることで適応している。持続可能な開発目標(SDGs)やグローバル・オーガニック・テキスタイル・スタンダード(GOTS)のようなイニシアティブは、多くのインドの繊維メーカーに、オーガニックコットンの使用、環境に優しい染料、水効率の良い生産技術など、より持続可能なプロセスの採用を促している。
インドはすでに、持続可能性を重視することのメリットを実感し始めている。特に欧米の消費者は、倫理的に生産されたテキスタイルをますます求めるようになっており、インドのメーカーに新たな輸出機会をもたらしている。低コストで環境に優しいテキスタイルを生産できるインドは、世界市場において独自の地位を確立しており、持続可能なファッションとテクニカル・テキスタイルの分野でさらなる成長の可能性を秘めている。
インドの繊維産業は今後数年間、継続的な成長が見込まれる。繊維製品に対する世界的な需要が高まる中、インドの競争上の優位性、すなわち、低い人件費、豊富な労働力、豊富な原材料の供給は、今後もインドの拡大に拍車をかけるだろう。さらに、世界がより持続可能な慣行へとシフトする中、環境に優しい生産に重点を置くインドの成長は、特に欧州と北米の世界市場でより大きなシェアを獲得するのに役立つだろう。
世界繊維市場におけるインドのシェア拡大は、その戦略的パートナーシップ、政府支援の拡大、持続可能性への注力と相まって、同国が今後も繊維産業において重要な役割を果たすことを示している。中国との競争は依然として激しいが、インドは低コスト製品から高価値製品まで多角的なアプローチをとっており、また持続可能性に重点を置いていることから、今後も世界の舞台で手ごわい存在であり続けるだろう。
インドは2028年までに世界第2位の繊維輸出国としての地位を固め、特定分野では中国の優位に挑戦する可能性があると予想されている。旺盛な国内消費と世界的な需要増に支えられた同国の繊維産業は、今後数十年の経済成長の重要な原動力となるだろう。